長距離に適したWi-Fiの新規格、IEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow)とは?

本技術コラムでは、2024年2月22日に当社主催で開催しました 『 (工場・ビルなど) 進む社会インフラのスマート化、映像データを最長1km伝送可能な無線LAN技術とは ~IoT向け広域無線LAN「IEEE802.11ah」を活用して、カメラやセンサを広範囲で接続する~』 というセミナーの講演内容のポイントについてご紹介します。

目次

IoTに最適。長距離に適したWi-Fiの新規格、IEEE802.11ah (Wi-Fi HaLow) とは?

IEEE802.11ahは、Wi-Fiの新しい通信規格であり、別名Wi-Fi HaLowとも呼ばれています。 従来のWi-Fi通信規格とは異なり、920MHz帯の比較的低い周波数を利用することで、広範囲のエリアをカバーし、高速な無線アクセスを実現します。 この特性により、工場やオフィスの環境計測、家電製品の接続など、IoT(Internet of Things)の普及に大きく貢献することが期待されています。


引用:802.11ah推進協議会の資料より

従来のWi-Fi通信では2.4GHzや5GHz帯の周波数を使用していましたが、IEEE802.11ahでは920MHz帯を利用することで、消費電力を抑えつつ長距離通信を実現できます。 これにより、広範囲に渡るセンサやカメラの接続が可能となり、工場やビルなどの広い施設内でのIoTデバイスの活用が容易になります。

また、IEEE802.11ahはLPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる通信方式の一つであり、従来のLPWA通信規格であるLoRaWANやSigfoxと比較しても、広範囲での高速通信を実現できる点が特徴です。 このため、IoTデバイスの接続において、より効率的で高速なデータ伝送が求められるシーンでの採用が期待されています。

従来のWi-FiやLPWAとの比較や特徴 (長距離、高速、Wi-Fiと同じIPフレームを利用)

IEEE802.11ahの技術的特徴としてまず挙げられるのは、サブギガ帯の利用による長距離通信の実現です。 約1kmという長距離通信が可能になっており、これにより広範囲のエリアをカバーすることができます。 特に、電波の障害物の回り込み性能が優れているため、建物や障害物が多い環境でも安定した通信が期待できます。これは、工場やオフィス、屋外の広い施設などでの利用において大きなメリットとなります。

また、オープン規格のIPベースであることも重要な特徴です。Wi-Fiと同じIPフレームを使用した汎用的な通信が可能であり、これによりIoT機器などで一般的に使用されるTCP/IPなどのオープンな通信規格を簡単に無線化することができます。 変調方式にはOFDMを採用しており、LPWAでありながら数MHzの通信速度を実現しています。これにより、映像データなどの大容量データを長距離で伝送することが可能になり、遠隔監視などの用途に適しています。

セキュリティ面では、Wi-Fiシステムで標準的に採用されているWPA2やWPA3などの暗号化技術が継承されており、セキュリティ管理が厳しい用途でも安心して使用できます。 これは、企業や公共施設などセキュリティが重要視される環境での採用を促進します。

運用面では、異なるメーカの製品を接続できるため、自由度の高いネットワーク構築が可能です。 また、免許不要で運用できるため、現行の920MHz帯の方式と同様に共存して利用できます。1台のアクセスポイントで広い半径1kmほどのエリアをカバーできるため、既存のWi-Fiに比べてアクセスポイントの設置台数を削減できる特徴があります。 これにより、設置コストやメンテナンスコストの削減が期待できます。

802.11ahの通信特性を図表化すると、通信距離と通信速度のバランスが優れていることがわかります。 従来のWi-Fi(802.11axなど)は高速で距離が短いエリアを担当しているのに対し、802.11ahは比較的速度が速くて距離も延びるエリアをカバーできます。 これにより、Wi-Fiでは通信できなかった距離でも通信が可能になり、従来のLPWAではできなかった大容量通信も可能になります。 これは、産業用途やスマートシティ構築など、広範囲での高速通信が求められるシーンでの採用を促進します。


802.11ahの通信特性

従来のWi-Fiとの比較では、802.11ahは920MHz帯を使用することで電波の回り込み特性が良好であり、100m~1kmの距離を通信できます。 一方で、通信速度は従来のWi-Fiに比べると低下しますが、監視カメラなどの動画転送に十分な速度を実現しています。 これにより、広範囲での監視システム構築やリモートコントロールなど、多様な用途での活用が期待されます。

IoT向けの無線システムとしての802.11ahの優位性は、既存のLPWAと比較して高速な通信が可能であり、異なるメーカ間での接続が可能であることです。 また、IPベースの通信が可能であるため、既存のIP資産を活用できることも大きなメリットです。これにより、IoTデバイスの接続やデータ収集、遠隔制御など、幅広い用途での採用が促進されます。


LPWAの課題と802.11ahの優位性

ここまで、長距離に適したWi-Fiの新規格、IEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow)について解説をしてきました。 次にIEEE802.11ahの環境を構築する具体的な方法と活用事例について解説していきます。

簡単に接続でき、長距離・無線LAN化できる「IEEE802.11ah対応 無線LANコンバータ」の紹介

IEEE802.11ah対応の無線LANコンバータは、当社が提供する軽量でコンパクトな設計の製品です。 このコンバータは、さまざまな場所への設置が可能で、外部アンテナにも対応しています。 長距離伝送タイプのアンテナとコンパクトタイプのアンテナの2種類を用意しており、用途に応じて選択できます。


IEEE802.11ah対応 無線LANコンバータ

この製品の最大の特徴は、802.11ahの特性を活かし、IPフレームを使用した汎用的な通信を無線化できることです。 これにより、ソケット通信やModbus-TCP、BACnetなどの通信を簡単に無線化できます。これは、有線で接続しているシステムを無線化することが難しい場合や費用がかかる場合に非常に便利です。

また、このコンバータは、簡単な設定で無線ネットワークを構築でき、グループ化も可能です。 基本的には、ESSID(ネットワーク名)、暗号化設定、使用する帯域とチャネルを合わせることで、グループ化が簡単にできます。 当社の無線LANコンバータでは、1台の親機に対して最大4台の子機を接続できるグループを構築できます。

設定は、ノートパソコンに有線LANケーブルをつないで設定用のWebページを開くことで、ブラウザ上で簡単に行えます。 サイズ感としては、非常にコンパクトで設置方法も柔軟であり、壁付けやDINレールへの取り付けが可能です。 電源はDC8V~35Vと広い範囲で対応しており、使用場所を選ばずに設置できます。

よく問い合わせをいただく活用方法としては、監視カメラの無線化、リモートI/Oの無線化、離れた場所にあるPLCの情報収集などがあります。 特に、802.11ahの特性を活かし、広いエリアをカバーできるため、工場内の離れた場所に設置されたPLCなどの情報収集に非常に有効です。

このように、IEEE802.11ah対応の無線LANコンバータは、Wi-Fiと同様に簡単に接続し、長距離・無線LAN化を実現することができるため、多様な産業用途での活用が期待されています。

野外でのWi-Fi利用など、IEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow)の活用事例

IEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow)は、その長距離伝送能力を活かして、さまざまな野外や広範囲でのIoT通信に活用されています。ここでは、802.11ahを利用した具体的な国内事例をいくつか紹介します。

一つの例として、埼玉県の茶葉研究所で行われた実験があります。 この実験では、茶畑に設置されたIoTセンサやカメラからの情報を802.11ahを通じて収集し、その情報をLINEで生産者に転送するシステムが構築されました。 これにより、茶畑の状態をリアルタイムで把握し、適切な管理が可能になります。

また、高知県では「IoPクラウド」というクラウドサービスの普及に向けたモデル化実証が行われました。 この実証では、802.11ahを活用してカメラや水位センサ、温度センサなどからの情報を集約し、高知県のIoPクラウドに送信するシステムが検証されています。 これにより、水管理や農業の効率化が期待されます。

さらに、NTT東日本によるスマート畜産に向けた実証実験も行われています。 この実験では、802.11ahを使用して畜産現場の様々な情報を収集し、畜産の効率化や管理の改善が図られています。

タワークレーンを想定したカメラ伝送の実験も行われており、フルノシステムズの機材を使用して370m以上の距離でカメラ映像が伝送できることが実証されました。 これにより、ビルの建築現場でクレーン同士の作業状態を監視し、安全性の向上が図られます。

当社も参加している802.11ah推進協議会では、νLabというラボを設置しており、ここでは802.11ahをはじめとする新たな無線技術の機器を展示しています。 νLabでは、施設内に設置されたカメラや温度センサからの情報を802.11ahを通じて伝送し、実際にその性能を確認することができます。 このようなデモンストレーションを通じて、802.11ahの実用性を体感できる機会が提供されています。


vLabの屋外環境を利用した11ahデモ展示

このようにIEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow)は、野外や広範囲でのIoT通信において、その長距離伝送能力を活かした様々な用途での活用が期待されています。

当社は、Wi-Fiと同様に簡単に接続し、長距離・無線LAN化できる「IEEE802.11ah対応 無線LANコンバータ」のほかにも、野外や長距離でのIoT通信をサポートするソリューションをご提供しています。ぜひご相談ください。

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