産業用PCやPLCなどの制御コントローラを ネットワークに接続する際に欠かせない装置が、スイッチングハブです。
スイッチングハブにはさまざまな種類があり、用途や環境によって求められる性能は大きく異なります。特に工場や公共交通機関などの大規模かつ停止が許されない環境では、相応の性能や信頼性を備えた機器を導入する必要があります。
本コラムでは、産業用スイッチングハブの基本知識や選定時に押さえておきたいポイントについて解説します。
目次
スイッチングハブとは

産業用スイッチングハブの解説に入る前に、まずはスイッチングハブの基本的な機能と役割を整理します。
機器をネットワークに接続する装置
スイッチングハブは、LANケーブルを用いて産業用PCやPLCなどの制御コントローラをネットワークに接続するための機器です。複数のポート(差込口)を備えており、接続された機器同士のデータ送受信を管理する役割を担います。
一般家庭や小規模オフィスだけでなく、大規模なオフィスビルや工場などでも幅広く利用されています。
ルーターとの違い
スイッチングハブとルーターはどちらもネットワーク機器ですが、機能面では大きな違いがあります。
スイッチングハブはLANケーブルのポートを増設するための機器であり、単体ではインターネットに接続することはできません。そのため、必ずルーターなど他の機器と組み合わせて使用する必要があります。
一方、ルーターはIPアドレスの割り当てや外部との通信制御を行う機器であり、インターネットと内部ネットワークを繋ぐ中継地点として位置付けられます。
リピーターハブとの違い
データ転送方式の違い
例:PC①のデータをPC④へ転送する場合
スイッチングハブ 特定の機器だけに通信
リピータータブ 全ての機器に通信

スイッチングハブとは、特定の機器にのみデータを送信するハブのことです。
接続された機器のMACアドレスを記憶して送信先を判断するため、ネットワーク資源を効率的に利用できます。
一方、リピーターハブとは、信号の増幅や波形の調整といった物理的な処理に限定される、動作・構造が単純なハブのことです。かつては広く利用されていましたが、現在はスイッチングハブに置き換わっており、一般的に使われることはほとんどありません。
ただし、 リピーターハブは全ポートに同じ信号を転送するため通信内容を簡単にキャプチャでき、デバッグやトラブルシューティング用途で使用されるケースもあります。
スイッチングハブとリピーターハブの大きな違いの一つが、データの転送先です。
リピーターハブは、接続されたすべての機器にデータを送信する仕様となっており、不要な通信が発生するため、通信効率が低下しやすい特徴があります。
一方でスイッチングハブは、特定の機器にのみデータを送信する仕様であることから、通信効率の高さやエラーが起こりにくいという意味でリピーターハブより優れています。
産業用スイッチングハブとは
スイッチングハブのうち、工場や交通インフラなどの大規模な事業所で利用されるものを、一般的に「産業用スイッチングハブ」と呼びます。これに対し、家庭や小規模オフィスで使われるものは「民生用スイッチングハブ」と呼ばれることがあります。
両者ともにLANケーブルを介して産業用PCやPLCなどの制御コントローラなどの機器 をネットワークに接続するという基本的な役割は変わりません。
しかし、産業用スイッチングハブは 「一般のオフィスとは異なり、温度や振動条件が悪い現場や、停止が許されない環境で安定稼働できること」 を前提として設計されている点が大きく異なります。
具体的には、以下のような要件を満たすことが求められます。
- 耐環境性:温度変化や振動、防塵・防水など、厳しい環境条件に耐えられる
- 信頼性:現場で停止することなく、常に安定稼働を確保できる
- 冗長性:電源やネットワークの2重化(冗長化)に対応しており、障害発生時でも稼働できるように設計できる
- 管理性:マネージドスイッチ(ネットワークを監視・制御できる機能を備えたスイッチ)のモデルを選択すれば、監視や障害対応を効率的に行える
以下の表で、両者の代表的な違いを整理しています
産業用スイッチングハブの選び方
産業用スイッチングハブは、民生用スイッチングハブと比べて、より過酷な環境下での使用を想定した仕様になっています。
実際に導入を検討する際は、特に以下の6点に着目することが重要です。
ポート数
取り付け方式
環境耐性
電源2重化
ワイドレンジ電源対応
Auto MDI/MDI-X
ポート数
産業用スイッチングハブのポート数は製品によって異なるため、用途に応じて必要な数を選ぶことが重要です。
接続するデバイスの台数を考慮し、将来的な拡張も見据えて必要数より余裕のあるポートを確保することが推奨されます。また、ポートは用途によって、メタルポートと光ポートに大別できます。メタルポートはLANケーブルを接続できるポートで、光ポートは光ファイバー(ケーブル)を接続できるポートです。
光信号を使用する予定がなく、ノイズや雷の影響が少ない場所であればメタルポートで問題ありません。一方、伝送距離を延長したい場合や、ノイズ・落雷の影響が大きい場所では、光ポートを多めに確保するのが望ましいです。
取り付け方式
産業用スイッチングハブの取り付け方式は、DINレールや壁面へのネジ固定などが代表的です。 その他、マグネットを使用する取り付け方式などもあり、使用環境や用途に合わせて選択できます。
DINレールは制御盤内で広く採用されている標準規格であり、他の機器と並べて効率的に設置できるほか、交換や追加も容易に行えます。壁面固定は振動の影響を受けにくく、制御盤外や限られたスペースでの設置に適しています。マグネット取り付けは工事不要で簡単に設置でき、メンテナンス時の位置調整も柔軟に行える利点があります。
適切な取り付け方式は、制御盤や盤内配線の設計、設置環境に応じて異なるため、事前に十分に検討することが推奨されます。
耐環境性
産業用スイッチングハブを選ぶ際は、温度変化や振動、湿度、ノイズ、水分、粉塵などの厳しい環境条件に耐えられるかどうかを確認することが、安定稼働を確保する上で重要です。
耐環境性は、振動・衝撃試験やノイズ試験(EMC試験・静電気試験など)、電源異常試験(電圧変動や瞬時停電)といった各種評価によって確認されます。これらの試験に合格している製品であれば、工場や屋外といった過酷な環境でも安定して稼働できる信頼性が高いと考えられます。
実際に製品を選ぶ際には、製品ページのスペック表に記載された動作温度範囲、防塵・防水性能、湿度条件、耐振動・耐衝撃の規格準拠などを確認すると良いでしょう。
電源2重化
産業用スイッチングハブを選ぶ際は、電源2重化に対応している製品を選ぶことが推奨されます。
電源が1系統のみだと、電源の故障などが 発生した際にスイッチングハブ自体が停止し、他の機器にも大きな影響が及びます。メイン電源に加えてサブ電源を設けることで、予期せぬ事態に備えることが可能です。
なお、予備電源を複数配置する手法を「冗長化」と呼び、2重化もその一種に含まれます。
ワイドレンジ電源対応
産業用スイッチングハブでは、広い直流入力レンジ(ワイドレンジ電源対応)の有無が安定稼働の観点で重要になります。
入力電圧の許容範囲が広い製品(例:8〜35VDC、12〜48VDCなど)であれば、現場でよく利用される12V・24V・48V系の電源に柔軟に対応できます。
また、配線が長い場合に起こりやすい電圧降下や、UPS・バッテリ電源を併用するケースでも、ワイドレンジ電源に対応した製品であれば安定して稼働できます。
選定の際は、仕様表に記載されたDC入力範囲が自社の電源系を確実にカバーしているかを確認することが大切です。また、逆接続や過電圧に対する保護機能が備わっているかどうかも重要な判断基準となります。
Auto MDI/MDI-X
Auto MDI/MDI-X(オートMDI・自動MDI)とは、スイッチングハブのポートがMDIとMDI-Xを自動的に切り替える機能のことです。
前提として、スイッチングハブにLANケーブルを接続する差込口をポートと呼びます。ポートはピン配置の違いによって、MDIとMDI-Xに分類されます。
RJ-45ポート(一般的なLANケーブルの差し込み口)は8ピン構造で、送受信の割り当ての違いによって、MDIとMDI-Xに分類されます。
Auto MDI/MDI-Xによるケーブル接続方法の違い
Auto MDI/MDI-X非対応 クロスケーブルとストレートケーブルを使い分ける必要がある
Auto MDI/MDI-X対応 クロスケーブルとストレートケーブルを使い分ける必要がない
クロスケーブルとストレートケーブルどちらも使用可

MDI同士、またはMDI-X同士を接続する場合はクロスケーブル、MDIとMDI-Xを接続する場合はストレートケーブルが必要になります。
Auto MDIに対応していない機器では、用途に応じてケーブルの種類を正確に選ぶ必要があり、間違えると通信が確立できません。
一方、Auto MDI/MDI-X対応のスイッチングハブであれば、ポートが自動的に判別されて切り替わるため、クロスケーブルとストレートケーブルを厳密に使い分ける必要がなくなります。
産業用スイッチングハブの選定は機能性が重要
工場や大規模オフィスなどの産業用途でスイッチングハブの導入を検討する場合には、できる限り機能が充実した製品を選定する必要があります。
予算とのバランスも重要ですが、何よりも安定稼働を確保し、システムの停止を防ぐことを最優先に考えましょう。
ここからは、本記事で取り上げた機能を備えたコンテックの代表的な製品を紹介します。

小型サイズに10BASE-T/100BASE-TX対応ポートを5ポート搭載した産業用スイッチングハブです。
Auto MDI/MDI-X機能およびオートネゴシエーション機能に対応しており、配線や通信モードの自動判別により結線ミスを防止できます。
DINレールの設置が可能で、制御盤内など限られたスペースでも柔軟に導入できます。さらに、8~35VDCのワイドレンジ電源入力に対応し、電源2重化や逆配線対策回路も備えているため、過酷な現場環境でも安定した稼働が可能です。
使用周囲温度は−20~60℃に対応しており、幅広い環境条件下で利用できます。
SH-8008Fと同等の基本仕様を備えたモデルで、10BASE-T/100BASE-TX対応ポートを8ポート搭載し、−20~60℃の環境に対応します。
特長として電源逆配線対策回路を備えており、誤配線によるトラブルを防止できます。DINレール取り付け位置を中央に配置しているため、制御盤内の設置自由度が高いのも利点です。
8~35VDCのワイドレンジ電源入力と電源2重化にも対応し、異なる電圧系統の機器を接続する環境でも安定した稼働を実現します。
1000BASE-T対応ポートを5ポート搭載した産業用スイッチングハブです。金属筐体とFANレス設計を採用し、使用周囲温度−20~60℃の環境に対応します。
取り付けブラケットと壁面設置ブラケットを同梱しており、35mmDINレールまたは壁面に容易に設置可能です。
8~35VDCのワイドレンジ電源入力と電源2重化に対応しており、電源事情が異なる環境でも安定した稼働を実現します。FANレス設計で静粛性が求められる環境に適しており、オフィスや制御室など音を抑えたい場所での利用にも有効です。
1000BASE-T対応ポートを8ポート搭載した産業用スイッチングハブです。
ジャンボフレームに対応しており、大容量データの転送を伴うネットワーク環境に適しています。金属筐体とFANレス設計により、使用周囲温度0~50℃の環境に対応します。
電力自動調整機能を備えており、未使用ポートの電力を自動制御することで最大約60%の消費電力削減が可能です。12~24VDCの電源入力とDINレール取り付けにも対応しており、産業現場での安定した運用を実現します。
まとめ
スイッチングハブは、民生用・産業用いずれも機器をネットワークに接続するための装置です。ただし、産業用は民生用に比べて過酷な環境での使用が前提となるため、安定稼働を確保しシステム停止を防ぐことを最優先に選定する必要があります。
そのためには、接続する機器の種類や設置方法、環境条件などを踏まえ、必要な機能を備えた製品を見極めることが重要です。
適切な産業用スイッチングハブを導入することで、工場や大規模オフィスといった現場においても、長期にわたり安定したネットワーク運用を実現できます。
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