産業用マネージドスイッチングハブの特長は?代表的な管理機能と選ぶ際のポイント5選

マネージドスイッチングハブとは、スイッチングハブの1つで、ネットワークの状態監視や通信制御などの管理機能を備えたモデルを指します。
中でも、工場や大規模なオフィスなど厳しい環境下でも安定稼働するよう設計されたモデルは「産業用マネージドスイッチングハブ」と呼ばれ、信頼性や拡張性が重視されます。
本コラムでは、マネージドスイッチに搭載される代表的な機能や、製品を選ぶときに押さえたいポイントについて解説します。
目次
産業用マネージドスイッチングハブとは
マネージドスイッチングハブは、ネットワーク上の通信状況を把握し、制御・最適化できる管理機能を備えたスイッチングハブです。
産業用途では、工場設備・FA機器・センサ群・監視システムなど、多様な機器が同時に稼働するため、ネットワークの安定性や可視化、障害時の迅速な復旧が欠かせません。
そのため、産業現場ではアンマネージドスイッチよりも、後述で詳しく解説するSNMP・VLAN・QoS・RSTPといった管理機能を備えたマネージドモデルが優先して採用される場合があります。
これにより、産業ネットワークを次のように管理しやすくなります。
- 設備ラインや用途ごとにネットワークを分離し、通信効率を向上させる
- 制御系など重要な通信を優先し、混雑時の遅延や途切れを抑える
- 冗長経路を用意してループを防ぎ、障害時はバックアップ経路に自動切り替えする
- スイッチや接続機器の状態を監視し、異常の早期発見と予防保全につなげる
スイッチングハブとは
スイッチングハブとは、LANケーブルを通じて複数の機器をネットワークに接続するための装置です。
複数のポート(差込口)を備えており、産業用PCやPLCなどの制御コントローラ間でデータをやり取りする際に、通信経路を中継・分岐する役割を担います。
スイッチングハブは、接続された機器ごとの「MACアドレス」を手がかりに、データの送信先を判断します。MACアドレスとは、ネットワーク上で機器を識別するために割り振られた固有の番号(機器の住所のようなもの)です。
リピーターハブやルーターと混同されることもありますが、役割はそれぞれ異なります。
- スイッチングハブ:MACアドレスをもとに必要な機器にのみデータを送信する装置
- リピーターハブ:宛先を区別せず全ポートに同じデータを送信する旧世代の装置
- ルーター:インターネットとネットワークをつなぐ装置
スイッチングハブの基礎知識については、下記の記事で詳しく解説しています。
関連記事:産業用スイッチングハブの選び方|用途に応じた機能と仕様の確認ポイント
スイッチングハブの基本動作
マネージドスイッチの管理機能を理解するには、スイッチングハブが通信をどのように中継しているのか、基本的な動きを知っておくことが重要です。
ネットワーク上でやり取りされるデータのまとまりは「フレーム」と呼ばれ、フレームには送信元や宛先のMACアドレスなどの情報が含まれています。
特に重要な基本動作は、次の2点です。
MACアドレスの学習
スイッチングハブはフレームを受信した際に送信元MACアドレスを確認し、「このMACアドレスの機器は〇番ポートに接続されている」といった対応関係を内部の表(MACアドレステーブル)に登録します。
この処理を繰り返すことで、ポートごとにどの機器が接続されているかを把握し、必要なポートのみを選んでフレームを転送できるようになります。
フレームの転送
フレームを転送する際には、宛先MACアドレスをMACアドレステーブルと照合し、対応するポートにのみフレームを送信します。一方で、まだテーブルに宛先MACアドレスが登録されていない場合は、どのポートに転送すべきか判断できません。
そのため、一旦受信ポート以外の全ポートに同じフレームを送信します。このように、宛先が判明するまで一時的にフレームを広く流す動作を「フラッディング」と呼びます。
スイッチングハブの管理方式による分類

スイッチングハブは、搭載されている管理機能の有無や範囲によって「マネージドスイッチ」「アンマネージドスイッチ」「スマートスイッチ」に分類されます。
それぞれの特徴を理解しておくことで、運用規模やセキュリティ要件に応じた最適なモデルを選定できます。
マネージドスイッチ
マネージドスイッチは、ネットワークの状態を可視化しつつ、通信経路や品質を適切に制御できる管理機能を備えたモデルです。
産業用途では、設備ライン・制御系・監視系など複数のネットワークが同時に動作するため、通信負荷の偏りや遅延を抑え、安定したデータ転送を維持することが求められます。ネットワークの分離や通信優先度の調整、障害発生時の経路切り替えといった基本制御に加えて、各ポートの状態監視やログ取得による異常の早期把握にも対応できます。
こうした特性から、マネージドスイッチは安定稼働が重視される産業ネットワークにおける主要な選択肢となっています。
アンマネージドスイッチ
アンマネージドスイッチは、管理機能を持たないシンプルなモデルです。
電源を入れるだけで動作する「プラグ・アンド・プレイ」型で、設定不要かつ低コストで運用できるのが特長です。小規模ネットワークや一時的な環境での利用には十分ですが、通信制御やセキュリティ設定は行えません。
そのため、多数の機器が接続される産業用途や、トラブル時に迅速な把握が必要なネットワークでは採用が限定的です。
スマートスイッチ
スマートスイッチ(Webスマートスイッチ)は、マネージドスイッチとアンマネージドスイッチの中間に位置するモデルです。
Webブラウザなどを用いた簡易的な管理インターフェースを備えており、専門的な知識がなくても基本的なネットワーク制御が可能です。
代表的な機能には、以下のようなものがあります。
- VLANによるネットワーク分離
- QoSによるトラフィック制御
- ポートミラーリングによる簡易的な通信監視
マネージドスイッチほど多機能ではないものの、中小規模のネットワークや製造現場など、低コストで基本的な管理機能を重視する環境に適しています。
マネージドスイッチの主な機能
マネージドスイッチは、ネットワークの状態監視や通信の優先度制御など、運用を安定させるための管理機能が備わっています。
製品ごとに搭載機能は異なりますが、ここでは一般的なマネージドスイッチにおいて代表的な機能を紹介します。
SNMP(監視・制御機能)
SNMP(Simple Network Management Protocol)は、 ネットワーク機器の状態を遠隔で監視・制御するための標準プロトコルです。
マネージドスイッチなどの対応機器にSNMPを設定すると、 稼働状況やポートの使用状態、温度、電源などの情報を取得できます。障害時には「Trap」と呼ばれる通知が送信され、リンクダウン(通信リンクの切断)や機器異常の早期発見・復旧対応をサポートします。
また、設定値の変更といった一部のリモート制御も可能です。ただし、制御できる項目は機器が公開している範囲(MIB:管理情報ベース)に限られます。産業用途では、SNMPを活用することでネットワーク全体の稼働監視や設備保全の効率化を実現できます。監視カメラのPoE給電量や、冗長化された経路の切り替え状況を遠隔で把握することが可能です。
VLAN(仮想LANによる分割)
VLAN(Virtual Local Area Network)とは、物理的な接続構成に関係なく、ネットワークを仮想的に分割できる技術です。
1台のスイッチ上で「製造ラインA用」「製造ラインB用」など複数の独立したネットワークを構成できるため、通信をグループ単位で分離し、セキュリティや通信効率を向上できます。製造ラインや部門単位でネットワークを分割すれば、そのグループ内の機器だけに届くブロードキャスト(同一ネットワーク内の全端末に一斉送信される通信)の範囲を狭められるため、不要なトラフィックを抑えて通信負荷を軽減できます。
また、VLANの設定を追加・変更することで、設備の増設や構成変更があっても配線を大きく変えず柔軟に対応でき、運用効率の向上にもつながります。
QoS(通信優先度制御)
QoS(Quality of Service)とは、ネットワーク上で複数の通信が同時に行われる際に、データの通信順序や通信量を制御して、特定の通信を優先的に扱う技術を指します。
ネットワークに接続される機器が増えると、通信の集中により遅延やパケットロスが発生し、「音声が途切れる」「映像が乱れる」「Webページの表示が遅くなる」などの問題が生じる場合があります。
QoSを設定することで、遅延の影響を受けやすいリアルタイム通信を優先制御でき、重要なデータを安定して伝送できます。結果として、監視カメラ(IPカメラ)や音声通話(VoIP)システムの安定稼働が可能になります。
RSTP(冗長化・ループ防止)
RSTP(Rapid Spanning Tree Protocol)は、ネットワーク上で発生するループ(経路の循環)を防ぎながら、冗長化された経路を制御するためのプロトコルです。
スイッチ間を複数の経路で接続した冗長化ネットワークでは、障害が発生するとRSTPが自動的にバックアップ経路へ切り替え、通信の中断時間を最小限に抑えます。
この仕組みにより、数秒程度で復旧可能な安定したネットワーク環境を維持できます。RSTPは、同じ役割を持つ従来のSTP(Spanning Tree Protocol)を高速化した規格であり、障害発生時の通信経路切り替えにかかる時間を大幅に短縮できる点が特徴です。

産業用マネージドスイッチングハブの選び方
産業用マネージドスイッチングハブに求められるのは、「どのような環境でも停止せず、安定して通信を維持できること」です。
マネージドモデルは、ネットワークの監視や制御、障害時の自動復旧などに対応しており、より高い信頼性と柔軟な運用が可能です。
選定の際は予算や用途を踏まえながら、次のポイントを確認しましょう。
ここからは、各項目について詳しく解説します。
1. 堅牢性・耐環境性
過酷な環境下でも安定して稼働できる堅牢性と耐環境性は、産業用マネージドスイッチングハブを選定するうえで特に重要な要素です。
高温多湿、振動、ノイズなどの影響を受けやすい場所では、使用温度範囲・湿度・耐振動・ノイズ耐性などの仕様値を確認し、設置環境に適したモデルを選ぶことが求められます。たとえば、高温や粉塵が発生する工場、振動が多い鉄道施設などでは、動作温度範囲の広さや耐振動設計が安定稼働の鍵となります。
長期的な信頼性を確保するためにも、環境条件に応じた耐性を持つ製品を選定することが重要です。
2. 管理機能の充実度
前述で解説したSNMP・QoS・VLAN・RSTPなどの管理機能は、ネットワークの安定性や効率性、セキュリティの確保に直結する重要な要素です。
以下のように、それぞれの機能には異なる役割と利点があります。
導入時には、自社の運用環境や管理体制に合わせて、必要な機能が過不足なく備わっているかを確認することが重要です。
3. 電源仕様
ワイドレンジ電源対応や電源2重化の有無は、産業用スイッチングハブを選定するうえで重要な確認ポイントです。
異なる電圧や電流で動作する機器を同一システムで管理・運用する場合は、広い入力電圧範囲(ワイドレンジ電源)に対応したモデルを選ぶことで、ネットワーク設備の予備品などを共通化できるのでコスト削減し安定した運用が可能になります。
一方で、単一電源の機器では、電源トラブル発生時に装置が停止し、ネットワーク全体の通信が途絶するリスクがあります。
電源2重化に対応したモデルであれば、片方の電源が停止してももう一方から給電を継続できるため、システム全体の信頼性を維持できます。
4. PoE対応状況
PoE(Power over Ethernet)とは、LANケーブル1本で通信と電力を同時に供給できる技術を指します。
電源工事が難しい場所でも機器を設置できるため、監視カメラや無線アクセスポイントなど、設備の自由度を高められるのが大きな特長です。
PoEは、対応規格によって以下の3種類に分類されます。
産業用途では、電源工事の難しい屋外設置や高所設置においてPoE対応モデルの利便性が高く、配線コストの削減・メンテナンス負荷の軽減・設置自由度の向上といった効果が得られます。特に監視や制御の信頼性を重視する現場では、必要な電力を安定的に供給できるIEEE802.3af/IEEE802.3at対応モデルが推奨されます。
PoE機能については、下記の技術コラムでも詳しく解説しています。
関連記事:産業用PoE対応スイッチングハブとは?仕組みや規格、選び方のポイント5選
5. SFPポート/モジュールによる拡張性
産業用ネットワークでは、設置環境や通信距離に応じて柔軟に構成を拡張できることも重要です。
その際に活躍するのが、SFPポート/モジュールによる拡張性です。これらを活用することで、スイッチ同士を光ファイバーで接続したり、遠隔地との高速通信を実現したりと、ネットワーク設計の自由度を大きく高めることができます。
SFPポートとは
SFPポートとは、「Small Form-factor Pluggable(スモール・フォームファクター・プラガブル)」モジュールを挿入するための小型スロットのことです。
ネットワーク機器に搭載され、モジュールを交換することで、銅線(LANケーブル)や光ファイバーなど、さまざまな伝送方式に対応できる柔軟性を備えています。
SFPモジュールの種類と用途
SFPモジュールは、SFPポートに挿入して使用する光トランシーバーで、電気信号と光信号を相互に変換する役割を持ちます。
スイッチングハブやルーターなどのネットワーク機器と光ファイバーケーブルを接続することで、長距離かつ安定した通信を実現します。
また、光ファイバーは電気的な絶縁性を持つため、雷やサージ電流の影響を受けにくく、機器の故障リスクを低減できます。たとえば、工場設備や金属構造物に沿って配線するような環境でも、安定した通信を確保できます。
SFPモジュールは、以下のような基準でさらに分類されます。
- 通信速度(例:1000BASE、10GBASEなど)
- 伝送メディアの種類(光ファイバー/銅線)
- 伝送距離(数百m〜数十kmまで)
- 用途(アプリケーション)(LAN延長、監視システムなど)
- コネクタモデル(LC、SCなど)
- 動作温度範囲(産業用モデルでは広温度対応)
将来的な拡張性
産業用ネットワークは、設備の更新や機器の増設など、時間の経過とともに構成が変化していきます。 そのため、将来的な拡張性や柔軟性を考慮しておくことが、長期的な安定運用につながります。
たとえば、生産ラインの拡張やセンサ機器の追加が見込まれる場合は、ポート数や通信容量に余裕のあるモデルを選定しておくことで、構成変更にもスムーズに対応できます。 将来のネットワーク要件に対応できるように、ソフトウェア更新などのサポート体制が整った製品を選定しておくと安心です。
さらに、SFPポートを備えたモデルであれば、光ファイバー通信や長距離接続への切り替えも可能で、拠点間通信の拡張や再設計にも対応しやすい点が特長です。
産業用マネージドスイッチングハブの代表的モデル
産業用途におけるマネージドスイッチングハブのモデルとしてコンテック製品の一部を紹介します。
SH-9210F は、8ポートのRJ-45と2ポートのSFPスロットを備え、光ファイバー接続を含む柔軟なネットワーク構成に対応できる産業用マネージドスイッチングハブです。
VLAN、QoS、RSTP、SNMPなどのマネージド機能を搭載しており、監視や制御ネットワークの信頼性を高め、安定した運用をサポートします。 筐体には放熱性に優れた金属筐体を採用し、−35〜70℃の広い動作温度範囲に対応しています。また、DC12〜58Vの2重化電源入力を備えているため、設備環境に応じた安定した運用が可能です。
工場や屋外設備など、過酷な温度条件下でも安定稼働が求められる環境での利用に適しています。
SH-9210AT-POE は、8ポートのRJ-45と2ポートのSFPスロットを備え、PoE給電機能(IEEE802.3af/at準拠)に対応した産業用マネージドスイッチングハブです。
接続されたデバイスに電力を供給しながら通信を行うことができ、監視カメラや無線アクセスポイントなどのPoE対応機器の設置を容易にします。VLAN、QoS、RSTP、SNMPなどのマネージド機能を搭載しており、安定したネットワーク運用を実現します。 放熱性に優れた金属筐体とファンレス設計により、−35〜70℃の広い動作温度範囲に対応し、騒音やメンテナンス負担を軽減します。
また、DC12〜58Vの2重化電源入力に対応しているため、信頼性が求められる産業設備や屋外システムでも安定した稼働を維持できます。
SH-SFP-1G-LXD は、1000BASE-LXに対応したSFPモジュールです。
標準UTPケーブルでは伝送距離が100mまでとなるところ、本製品を使用することで最大10kmまで延長できます。長距離通信が必要な環境でのネットワーク構築に適しています。
SH-SFP-1G-SXD は、SH-SFP-1G-LXDと同様、1000BASE-SXに対応したSFPモジュールです。
マルチモードファイバー(MMF)使用時に最大550mの伝送距離を実現しており、短距離通信が求められるネットワーク環境での利用に適しています。
まとめ
産業用マネージドスイッチングハブは、VLANやQoS、RSTP、SNMPなどの高度な制御機能を備える一方で、一般的なアンマネージドモデルと比べて価格が高くなる傾向にあります。そのため、ネットワークの規模や運用目的を踏まえ、自社の環境で安定稼働に必要な機能を見極めたうえで、用途に適したモデルを選定することが重要です。
導入時には、機能要件や設置環境、将来的な拡張性などを総合的に比較・検討しながら、最適な製品を選ぶようにしましょう。
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