2021/11/25
装置組み込みコントローラ、生産ラインや設備の稼働状況を収集するIoTゲートウェイ端末、デジタルサイネージや業務用端末など、産業アプリケーションのハードウェアプラットフォームとなる産業機器は今、専用設計の機器から汎用デバイスと汎用OSの組み合わせに移行が進んでいます。汎用デバイスと汎用OSの組み合わせといえばWindowsパソコン。膨大な周辺機器やソフトウェア資産を活用して、アプリケーションを素早く、簡単に、低コストで構築できることがWindowsパソコンベースへの移行を加速させています。ただ、産業機器である以上、最も優先されるのは可用性です。Windowsパソコンの便利さを活かしつつ、産業機器としての可用性をどう確保するかが課題です。
産業機器の可用性とWindows / Linux対応の周辺機器やソフトウェアを活用できる柔軟性を兼備したコンピュータ、それが産業用PCです。産業用PCは、機能はいわゆるパソコンそのものですが、信頼性が高く、耐環境性に優れ、設置・組み込みがしやすく、供給期間が長い、といった特徴があります。産業機器としての適用性という観点では民生用PCとは一線を画します。今回の技術コラムでは、産業用PCを選定するときのポイントと可用性を軸にさまざまな観点から説明していきます。
技術コラム「産業用PCの特徴、パソコンの違い」はこちら
コンピュータは発熱する半導体部品の集まりです。中でも特に発熱が大きいCPUには特別な放熱の仕組みが必要です。空冷ファン付きのヒートシンクをCPUに取り付けて、熱をヒートシンクに移動させヒートシンクを空冷ファンで冷やすという仕組みがよく取られます。空冷ファンは放熱効果が高い部品ですが、有寿命部品のモータを使用していますので経年劣化で放熱性能が低下してコンピュータが故障してしまう恐れがあることに注意が必要です。空冷ファンを使用しているコンピュータを産業機器として使用する場合は、空冷ファンを定期交換部品として扱い、交換メンテナンスしていく運用が必要になります。ファンレスタイプとは、空冷ファンを使用していないコンピュータ本体製品のことを指します。有寿命部品の空冷ファンを使用していないので、メンテナンスフリーで使用できるメリットがあります。コンテックの製品では、「ボックスコンピュータ® BXシリーズ (以下、BOX-PC)」が該当します。
BOX-PC は、パソコンの便利さを産業機器として提供するために、ファンレスにこだわり設計開発しています。高性能なCPUほど発熱が大きくなりファンレス化の難易度が高くなります。BX-M1500は、TDP (熱設計電力) 35W のデスクトップ用CPUを使用しています。通常、空冷ファン付きヒートシンクを使用するところをコンテックはファンレス化に成功しています。天面ヒートシンクのすぐ下にマザーボードを配置してCPUの熱を上部から排出、筐体内に熱が回らないように工夫されています。
ファンレス組み込み用PC / スリムA5サイズ / Atom x5-E3940 (Apollo Lake SoC) / DC電源
昨年2020年10月からBOX-PCの使用周囲温度の表記方法を変更しました。これまでのエアフローなし (無風状態) での性能表記に加えて、実際のフィールドに近いエアフローありの性能表記を併記する方法をとっています。 こちらはBX-T210のデータシートの環境条件です。周囲温度 -20 ~ 70℃ の広温度範囲で使用可能とあります。エアフロー 0.7m/sとは、世界的に知られる「ビューフォート風力階級」によれば、「風力階級 1 (0.3 - 1.5m/s):風向きは煙がなびくのでわかるが、風見には感じない。」ということで、風見を感じないほどの極めて弱い風力が当たっている環境ということになります。
高温多湿は精密機器の大敵です。産業機器は耐環境性に優れていますが、高温多湿の環境は故障率が高まるためできるだけ避けるべきです。ファンレスタイプの産業用PCをキャビネット・制御盤に収納して使用する場合は、必要な設置スペースを確認の上で適切な大きさの筐体を選び、エアフローが期待できるファン付きの吸排気機構を備えたキャビネットや熱交換器などを検討することが望ましいです。著しく温度湿度環境が悪い場合は、盤用クーラーを取り付ける方法もあります。
SSDはSolid State Drive (ソリッドステートドライブ) の略で、コンピュータのデータを記録するストレージデバイス (補助記憶装置) です。HDD (Hard Disk Drive) と使い方は同じですが、SSDとHDDでは読み書きする仕組みが異なります。HDDは高速回転する磁気ディスクに磁気ヘッドを動かしてデータを読み書きしたりします。SSDより記憶容量の大きな製品があり、容量単価が安いというメリットがありますが、有寿命部品のスピンドル (モータ) を使用しているため寿命があり振動・衝撃に弱いというデメリットがあります。一方のSSDは半導体素子 (NAND型フラッシュメモリ) へ論理的にデータを読み書きするスピンドルレスのデバイスです。振動・衝撃に強く、無音で消費電力が少ないというメリットがありますが、HDDに比べると容量単価が高く、データ書き込みによる半導体素子の劣化から書き換え寿命があるのがデメリットです。書き換え寿命は下表のとおり半導体素子の違いにより異なります。
「突然ブレーカが落ちた、断線した」「保守作業中に電源コードに足を引っかけて電源プラグが抜けてしまった」「誤って電源プラグを抜いてしまった」フィールドでは電源まわりのトラブルが偶発的に起こります。Windows 搭載の産業用PCには、こうしたことに起因して「収集していたデータが消失する」「システム領域が破損して起動しなくなる」といった障害が起こる可能性があります。障害対策としてUPS (無停電電源装置) を使用する方法がありますが、機器構成はなるべく増やしたくないものです。UPSを使うのが産業用PCのみであればなおさらです。
こうした課題を解決するのがコンテックの「電断プロテクト®」です。Windowsは常にファイルを更新しているため、更新中に電源断があればそのファイルが破損することがあります。運悪くそれがWindowsにとって重要なファイルであった場合はOSシステムが壊れて立ち上がらなくなることがあります。組み込み機器向けのWindows、Windows 10 IoT Enterpriseにはロックダウン機能があり、その1つであるUWF (ユニバーサルライトフィルタ) を有効することにより、ストレージへの書き込みはメモリ上にリダイレクトされ、ストレージへの書き込みが抑制されますが、Windowsの起動中や終了中は保護されないなど、完全なものではありません。「電断プロテクト®」対応の製品は、強力なデータ保護機能が搭載されているSSDを採用しています。電圧低下が起こると、即座に SSD への新規書き込み処理の受付を停止、電力が失われる前に最終書き込み処理を行い、不完全な状態のまま電源が落ちて、データが壊れてしまうことを防いでいます。また、BIOS設定で SSD を読み込み専用ドライブにすることができます。「電断プロテクト®」を使うことで、電源断に起因する故障発生リスクを大幅に低減、OSシャットダウン不要の運用を実現することができます。
ここでWindows 10 IoT EnterpriseのUWF (Unified Write Filter) 機能について簡単に説明しておきます。UWFとは、OS / アプリケーションからのディスクへの書き込みをオーバーレイ領域にリダイレクトすることにより、ディスクへの書き込みを抑止する機能です。UWFを有効にしたOSシステムは、ソフトウェアのインストールやファイルの追加、削除などの変化がディスクに記録されず、次に起動したときには、変化する前の状態で起動されます。障害や不正使用からOSシステムを守るための機能です。
Windows 10 IoT Enterprise には、UWF (Unified Write Filter) をはじめ専用機を開発するために有用なロックダウン機能が搭載されています。
Windows 10 IoT Enterpriseのロックダウン機能
コンテックの産業用PCは「電断プロテクト®」をはじめとする5つのオリジナル機能で産業用PCの可用性をより一層高めています。これらの機能は、BIOSレベルで実現しており、ハードウェア、カスタムOS、BIOSを自社開発している当社ならではの強みです。Windows をはじめとするパソコンの技術は、安価で使いやすく、非常に便利な汎用プラットフォームですが、産業機器に応用するには、どのようにして可用性を担保するかが重要です。コンテックは新たな有用な機能を開発して順次製品に実装していきます。アプリケーションの課題や要望をぜひ当社にお寄せください。
コンテックだけのオリジナル機能
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