本技術コラムは、2025年4月に掲載されたindexPro iP-special (PR記事) の解説を当社が再編集したものです。
Raspberry Pi製品開発の経緯
Raspberry Piの産業用途への利用が加速している点に注目し、2021年からRaspberry Pi市場に参入、HAT(Hardware Attached on Top)サイズ I/O ボードの販売を開始しました。
2022年には汎用オープン技術の向上を目指してラインアップを拡充し、2024年にはCODESYS プレインストールモデルとRaspberry Pi OS モデルをリリースしました。
2025年にはさらに新製品を投入し、ユーザーの選択肢を増やしていく予定です。
小型組み込み用オールインワンPLC
小型組み込み用オールインワンPLCは、Raspberry Piの組み込み用モジュール「Compute Module 4 (CM4)」をベースとしたオリジナルのボードPLCです。
産業オートメーションやIoTデバイスなどに適した設計となっており、CODESYSをプレインストールしたモデルと、自社でソフトウェアを開発するユーザー向けにRaspberry Pi OSをインストールした2モデルを用意しています。
主な特長
- Raspberry Pi 4 との高い互換性 : 信頼性・耐環境性を高めた産業用グレード製品
- CODESYSプレインストール : IEC 61131-3準拠の言語でプログラム可能なソフトウェアPLC
- HATサイズボードでI/O拡張 : コンテックの豊富な周辺機器資産をフル活用
- IoT・産業オープンネット対応 : Web HMI機能、OPC UAサーバ機能、クライアント機能を搭載
Raspberry Pi 4 との高い互換性
Raspberry Piは2012年に教育用ボードとして誕生し、そのコンセプトを維持しながら第5世代まで進化してきました。
現在までに累計6,000万台以上が出荷されており、産業用のCompute Moduleも販売されています。
Raspberry Pi財団は、2023年の売上の60%以上が産業・組み込み用途であると公表しています。
コンテックはCompute Module 4 (CM4) を採用しており、Raspberry Pi との高い互換性があります。
さらに、RAS / RTC 機能、ウォッチドッグ、ハードウェアモニタ等を実装したRAS機能拡張ボードを開発し、産業用コントローラに不可欠な信頼性、耐環境性を実現しています。
オールインワンPLC 主な仕様 [CPI-PS10CM4]
- クアッドコア Cortex-A72 (ARMv8) 64bit SoC @1.5GHzを搭載
- DDR4 2GB 高速メモリを搭載
- 16GB eMMCを搭載
- 基本演算処理速度 (LD命令) : 1.86ns (*コンテック実測値)
- 応用演算処理速度 (ST命令) : 2.06ns (*コンテック実測値)
- プログラム容量 : 3MB
- 入出力タグ数 : 512 (*16bitデータも1タグ換算)
- 1000Mbps LAN×1、100Mbps LAN×1、HDMI×1、USB×2 を搭載
- M.2 Key M NVMeソケットを搭載
RAS機能拡張ボード
RAS機能拡張ボードは、Raspberry PiにRAS機能およびRTC機能、8~28VDC 電源入力機能を増設する拡張ボードです。
40ピンのピンヘッダでスタック接続するHATサイズの拡張ボードで、Raspberry Piに産業用コンピュータとしての幅広い拡張性と保守性を提供しています。
主な仕様
- RAS (Reliability, Availability, Serviceability) 機能
- RTC (リアルタイムクロック) を搭載
- WDT (ウォッチドッグタイマ) を搭載
- 電源スイッチ機能を搭載
- 8~28VDC電源入力
- 5VDC 500mA高出力高効率電源とノイズフィルタを搭載
HATサイズボードで最大8枚のスタック接続を実現
FA制御や計測制御システムには、多数の信号入出力が必要となります。
従来のRaspberry Pi は、HAT仕様によりI/Oカードが1枚しか接続できませんでしたが、コンテック独自の多段接続技術により、最大8枚までのスタック接続を実現しています。
HATサイズボードとオプション製品
当社ではRaspberry Pi を活用したFA制御システム向けに、周辺機器を増設するための拡張ボードや各種オプションを提供しています。
HATサイズの拡張ボードは、40ピンのピンヘッダでスタック接続し、計測制御に必要な各種I/Oを容易に追加できます。
さらに、DINレールマウントキットを使用することで、簡単な取り付けが可能です。
小型組み込み用PLCは、ボードPLCとして制御盤内に収納されることが多く、装置自体が金属製の筐体に収められることを考慮し、耐静電気性、スプリアス耐性、ノイズ耐性、耐衝撃性などに優れており、安心して使用できます。
HATサイズボード 主な仕様
- 配線しやすいプッシュ式ブロック端子台を採用
- 最大8枚のスタック接続に対応
- パソコン用拡張ボードとAPI互換(複数のプラットフォームで開発資産を流用可能)
- PythonやGCCのサンプルプログラムを提供
- 豊富な入出力タイプを用意
- -20~60℃の広範囲な動作環境に対応
今後は、特殊なアナログ入出力ボードやRS-232C / RS-422Aなどのシリアル通信ボード、さらにはカスタム向けの専用ボードの開発にも対応し、Raspberry Piの産業分野への展開を積極的に推進します。
CODESYS ランタイムをプレインストール
CODESYSは世界400社以上のOEMメーカに採用され、年間100万本以上のライセンスが出荷されています。
CODESYSストアでは、様々な用途に応じた各種ライセンスが販売されていますが、当社の小型組み込み用PLCには「CODESYS Control Standard S」のライセンスをプレインストールしています。
これにより、Raspberry Pi用の豊富な周辺機器の資産を活用し、多くの制御アプリケーションの構築が可能です。
CODESYSはIEC 61131-3の統一プログラミング言語のLD(Ladder)やFBD(Function Block Diagram)など、6種類の言語に対応しており、従来のPLCからのスムーズな移行が可能です。
さらに、ハードウェアには依存しないグローバル標準のソフトウェアであるため、ソフトウェアエンジニアが扱いやすく、高い保守性もあります。
マルチプラットフォーム対応
パソコンベースのシステムを部分的にRaspberry Pi ベースに置き換えたい、またはRaspberry Pi ベースのシステムをパソコンベースにスケールアップしたいといった要望に対し、コンテックは最小限のプログラム変更で移行することが可能です。
例えば、PCIバス、USB接続、イーサネット接続、ワイヤレス接続などを利用するパソコン用拡張ボードの場合、コンテックの統合ドライバソフトウェアがハードウェアの違いを吸収し、API レベルでのプログラム移行を容易にできます。
さらに、APIのサンプルプログラムも無償で提供しており、開発をスムーズに進めることができます。
ネットワーク & IoT連携の充実
小型組み込み用PLCは、産業用ネットワーク通信機能が充実しており、Modbus、EtherCAT、PROFINET、EtherNet/IP に対応しています。
そのため、コンテックのリモートI/O製品CONPROSYS® nanoシリーズの通信制御やFA制御機器との通信が可能です。
またOPC UA サーバ、Web HMI機能も搭載しており、DXを実現するIoT機能を統合したオールインワン・コントローラです。
そのため、追加機器が不要となり、導入コストの削減にも貢献します。
コンテックが提案する新たなビジネスソリューション
従来のPLCや自社開発における課題
これまで、小ロット帯のPLC(シーケンサ)のシステムでは、汎用のハードウェアPLCを活用するのが一般的でした。
しかし、多品種少量生産ではコストが合わず、特定メーカへの依存度が高いことに加え、ハードウェアだけでなく開発言語もメーカごとに異なるという課題がありました。
一方、大ロット開発では、自社開発の方がコスト面で有利になります。
しかし、開発難易度の高さに加え、ユーザーの要求仕様が高機能化することで、プログラム開発やソフトウェア工数の増大が大きな課題となります。
そこでコンテックは、ハードウェアPLCと自社開発の中間に位置する「少量~中量生産」かつ「高性能ニーズ」に対応するユーザー向けに、開発コストとネットワーク機能のバランスを最適化した小型組み込み用オールインワンPLCを提供しています。
小型組み込み用オールインワンPLCの導入
- ハードウェア、OS、CODESYSがすべて整った状態で提供
Raspberry Piベースに、産業用にチューニング済みのLinuxとCODESYSを搭載しているため、導入時のセットアップが不要です。ハードウェア選定、OS実装、セットアップといった開発初期の課題が解決済みであるため、スムーズにシステム開発に着手できます。
- エンジニアリングコストの削減
装置メーカにとって、製造コスト以上にエンジニアリングコストの増大が課題となっています。しかし、本製品はIEC 61131-3準拠のプログラム言語を採用しているため、開発者人口が多く、エンジニアの確保が容易です。既存のエンジニア資産をそのまま活用できるため、新たな教育コストの軽減にも貢献します。
- 長期信頼性と安定供給
Raspberry Piの産業用モジュールとして、安定供給を確保できる体制を整備し、さらにRAS / RTC 機能の拡張、信頼性・耐環境設計、ウォッチドッグ、ハードウェアモニタなどの実装により、長時間稼働が求められるFA現場でも信頼して使える品質を実現しています。
- 保守、修理が容易
装置メーカにとって、製造コスト以上にエンジニアリングコストの増大が課題となっています。しかし、本製品はIEC 61131-3準拠のプログラム言語を採用しているため、開発者人口が多く、エンジニアの確保が容易です。既存のエンジニア資産をそのまま活用できるため、新たな教育コストの軽減にも貢献します。
注力するアプリケーションと市場
- FA / 産業オートメーション分野
- 工作機械や搬送ラインなどの制御装置、センサ管理、データ収集
- IoT / スマートファクトリー分野
- 装置メーカ / OEM企業
まとめ
Raspberry Piは、ARMアーキテクチャを採用したPCとも言える存在であり、豊富な周辺機器と活用情報が入手しやすい点が特長です。
さらに、産業用途の活用に対する関心も高まっており、今後は特定センサの利用、周辺装置との通信、クラウド接続など、多様なニーズに対応する情報が容易に取得できるようになると考えています。
コンテックは、これまでの「誰でも手軽にFAで利用できる製品」の開発で培った技術力をRaspberry Piビジネスに活用し、拡張ボードおよびソフトウェアの開発・販売をさらに推進することで、ソフトウェアPLCを新たな選択肢として提示しています。
今後も、計測・制御の分野において、ハードウェアやデバイスドライバの開発を通じ、技術の変遷にスムーズに対応できるよう努めていきます。
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