工場や生産設備の自動化が進む中で、機器同士をつなぐネットワークは、安定稼働や生産性を支える重要な要素になっています。一方で、近年ではAGV(無人搬送車)や可動設備の増加により、従来の有線LANでは配線工事の負担やレイアウト変更への対応、移動体との接続といった課題が顕在化しています。
こうした背景から、工場制御ネットワークの無線化に関心が高まっています。しかし、制御用途においては「通信の遅延や瞬断がそのまま設備停止につながる」ため、オフィス用途のWi-Fiとは異なり、通信の安定性・信頼性を前提とした設計と機器選定が不可欠です。
そこで注目されるのが、産業用ネットワーク規格として知られるCC-Linkの発展形であるCC-Link IE TSNです。
本記事では前編として、CC-Link IE TSNの基本的な知識や、無線認証の考え方、対応する無線LAN製品の概要について、初心者にもわかりやすく解説します。
工場内の機械や設備をネットワークにつなぎ、制御や監視に活用することは以前から行われてきましたが、近年では、AGV(無人搬送車)や可動設備の導入、頻繁なライン変更などにより、ネットワークに求められる柔軟性が高まっています。
従来は有線LANによる接続が多く用いられてきましたが、ケーブルがあることで、配線工事やレイアウト変更、移動する機器への対応が制約になる場合があります。
こうした課題を軽減する手段として、工場制御ネットワークの無線化が注目されています。
特に注目される理由は、以下の3つです。
CC-Link IE TSNです。
CC-Link IE TSNは、標準イーサネットをベースに、産業用途における制御通信への対応力を高めたネットワークです。
リアルタイム性が求められる制御通信と、監視・診断などの情報通信を同じネットワーク上で扱いやすくし、従来は用途ごとに分かれていた通信の統合が可能になります。
特に、通信の遅延やばらつきを抑える仕組みを備えているため、無線化を含めたネットワーク構成においても、安定した通信を前提とした設計を検討しやすくなります。
TSN規格とは
TSN(Time-Sensitive Networking)とは、標準イーサネット上で、時間に厳しい通信を扱いやすくするための技術です。
一般的なイーサネットでは、複数のデータが同じネットワーク上を流れるため、重要な制御データであっても通信の混雑状況によって遅れが生じる可能性があります。
オフィス用途であれば大きな問題にならない場合でも、工場の制御用途では、通信の遅れが設備の動作や生産品質に影響することがあります。
TSNでは、機器同士の時刻を同期し、重要な通信を決められたタイミングで流せるようにします。これにより、標準イーサネットを活用しながら、制御用途に求められるリアルタイム性を確保しやすくなるのが特徴です。
CC-Link IE TSNでは、このTSN技術を採用することで、制御通信のリアルタイム性を確保しながら、情報通信も同じネットワーク上で扱いやすくしています。
従来のCC-LinkやCC-Link IEとの違い
CC-Link IE TSNは、従来の「CC-Link」や「CC-Link IE」を発展させた産業用ネットワークです。
CC-Linkは、フィールドバスとして工場内の制御通信を担ってきた従来型のネットワークです。CC-Link IEでは、通信基盤をイーサネットへ移行することで、より高速かつ大容量の通信に対応しやすくなりました。
さらにCC-Link IE TSNでは、TSN技術を採用することで、制御通信のリアルタイム性を確保しながら、情報通信との混在にも対応しやすくなっています。
これにより、設備制御だけでなく、監視・診断、トレーサビリティ(製品の製造履歴や品質情報を追跡すること)などの情報活用も、同じネットワーク上で進めやすくなります。
以下に、従来のCC-Link、CC-Link IE、CC-Link IE TSNの違いを簡単に整理します。
| 観点 |
CC-Link |
CC-Link IE |
CC-Link IE TSN |
| 位置づけ |
工場内の制御通信を担う従来型ネットワーク |
イーサネットを活用し、高速・大容量通信に対応したネットワーク |
TSN技術により、制御通信と情報通信を同じネットワークで扱いやすくしたネットワーク |
| 主な用途 |
I/O制御などの現場制御 |
制御通信に加え、監視・診断などの情報通信 |
制御通信、情報通信、高度なモーション制御 |
| 特徴 |
現場制御向けの安定した通信 |
より多くのデータを扱いやすい |
リアルタイム性を確保しながら、情報活用もしやすい |
CC-Link IE TSNで実現できる3つのこと
CC-Link IE TSNを導入するメリットは、大きく分けると以下の3つです。
制御通信と情報通信を同一ネットワークで扱える
高度なモーション制御に対応しやすい
立ち上げ・運用・保守の工数削減につながる
1. 制御通信と情報通信を同一ネットワークで扱える
CC-Link IE TSNでは、1つのネットワーク上で複数のプロトコル(異なる通信ルール)を同時に扱うことが可能です。これにより、従来は制御用と情報用に分かれていたネットワークを一本化でき、構成のシンプル化にもつながります。
そのため、リアルタイム性を保持しながら、他のオープンネットワークやITシステムとの通信を同時並行で行えるのが大きな強みです。
システム構成の自由度が比較的高いため、配線コストやメンテナンス工数の削減にも役立ちます。
2. 高度なモーション制御に対応しやすい
CC-Link IE TSNでは、機器間の時刻を同期させる機能を活用し、決められたタイミングで入出力データを送受信できます。
そのため、サイクリックデータ(一定の間隔で繰り返し送受信される制御用データ)の通信周期を短くしやすく、複数の機器を連携させる制御にも対応しやすくなります。
これにより、回転動作を細かく制御するサーボモータや、直線方向の動きを高精度に制御するリニアモータなどを用いる設備でも、高速・高精度なモーション制御を行えます。
3. 立ち上げ・運用・保守の工数削減につながる
CC-Link IE TSNの導入でネットワーク構成のシンプル化や機器管理の一元化ができ、立ち上げ・運用・保守にかかる工数を削減できます。
CC-Link IE TSNに対応した機器や、スイッチングハブ・ルータなどのIP機器は、SNMP(ネットワーク機器を遠隔で監視・管理する仕組み)でまとめて管理できます。
つまり、複数の機器を同じ監視ツール(※ここではSNMP)で監視できるため、工数およびコストの削減に役立ちます。なお、SNMPは機器の監視・管理に用いられる仕組みであり、機械の制御を担うCC-Link IE TSNとは役割が異なります。
SNMPとは?
IPネットワーク上のルータやスイッチ、端末などの機器を、ネットワーク経由で監視・管理するための通信規約(プロトコル)の一種です。正式名称は「Simple Network Management Protocol」ですが、略称のSNMPが広く使われています。
CC-Link IE TSNの無線認証とは
CC-Link IE TSNでは、有線通信を前提としたネットワークに無線機器を導入するための試験制度として、「推奨無線機器試験」が設けられています。
この試験制度の位置づけを理解することで、用途に適した無線機器の選定がしやすくなります。
ここでは、無線認証の位置づけと、機器選定時に確認したいカテゴリ・クラスの考え方を整理します。
推奨無線機器試験の位置づけ
推奨無線機器試験は、CC-Link IE TSNネットワークに無線機器を導入する際、用途に合った機器を選定しやすくするための試験制度です。
工場制御ネットワークを無線化すると、配線工事の負担軽減やレイアウト変更への対応などのメリットがあります。しかし、無線通信は周囲の設備、障害物、ほかの無線機器などの影響を受けるため、用途に応じた通信品質や安定性を考慮する必要があります。
認証を取得している機器は、CC-Link IE TSN用途での導入を検討する際の判断材料の一つになります。ただし、実際の導入可否は、通信内容や求められる応答性、設置環境、接続する機器の条件などによって異なります。
そのため、認証の有無だけで判断するのではなく、用途や現場環境に合わせて検討することが重要です。
推奨無線機器試験では、想定される用途に応じて認証カテゴリが整理されています。
大きくは、情報・監視用途を想定した「カテゴリINFO」と、制御用途を想定した「カテゴリCTRL」に分かれます。また、カテゴリCTRLは、求められる制御内容に応じてクラスAとクラスBに分かれます。
次に、これらのカテゴリINFO・カテゴリCTRL、クラスA・クラスBの違いを整理します。
カテゴリINFOとカテゴリCTRLの違い
CC-Link IE TSNの無線認証は、想定する用途に応じて「カテゴリINFO」と「カテゴリCTRL」に分かれます。
カテゴリINFOは、情報・監視用途を想定した認証カテゴリです。たとえば、パラメータやログデータの通信、カメラ映像の通信など、機器の状態把握や監視に関わる用途が想定されています。
一方、カテゴリCTRLは、制御用途を想定した認証カテゴリです。リモートI/O制御やAGV(無人搬送車)など、機器の動作に関わる通信での利用が想定されています。カテゴリCTRLは、さらに想定用途に応じてクラスAとクラスBに分かれます。
カテゴリINFOとカテゴリCTRLの違いは、以下のように整理できます。
| 項目 |
カテゴリINFO |
カテゴリCTRL |
分類 (用途区分) |
情報・監視用途 |
制御用途 |
主な通信内容 (例) |
パラメータ、ログデータ、カメラ映像などの通信 |
リモートI/O制御、AGV、モーション制御などに関わる通信 |
| 選定時の確認ポイント |
機器の状態把握や監視に使う通信かを確認する |
機器の制御に関わる通信か、必要な応答性や同期性を確認する |
カテゴリCTRLにおけるクラスAとクラスBの違い
さらにカテゴリCTRLは、CC-Link IE TSNプロトコルバージョン2.0における認証クラスA/Bに合わせて、クラスAとクラスBに分かれます。
クラスAは、同期通信が不要なリモートI/O制御やAGVなどの用途を想定した分類です。一方でクラスBは、同期通信が不要なリモートI/O制御やAGVに加えて、同期通信が必要なモーション制御まで想定した分類です。
| 項目 |
クラスA(カテゴリCTRL) |
クラスB(カテゴリCTRL) |
| 想定用途 |
同期通信が不要な制御用途を想定 |
同期通信が不要な制御用途から、同期通信が必要なモーション制御までを想定 |
| 代表例 |
リモートI/O制御、AGVなど |
リモートI/O制御、AGV、モーション制御など |
ポイント
カテゴリINFO/CTRLは、情報・監視用途か、制御用途かを示す分類であり、クラスA/Bは、カテゴリCTRLの中で、想定される制御用途の範囲を示します。機器を選ぶ際は、用途に合うカテゴリとクラスを確認することが重要です。
CC-Link IE TSN対応無線LANの主な用途
CC-Link IE TSN対応の産業用無線LANは、ケーブルを使わずに機器をネットワークへ接続できる点が最大の強みです。そのため、配線が難しい場所や、移動する機器、レイアウト変更が発生しやすい設備などで活用を検討しやすくなります。
ここでは、無線化による効果を期待しやすい用途として、搬送装置、AGVなどの移動体、装置内配線や既存有線LAN機器の無線化について解説します。
搬送装置での無線LAN活用
ベルトコンベアなどの搬送装置は、部品や製品を移動させる工程で使われる設備です。搬送装置をネットワークに接続することで、稼働状況の把握や動作制御に活用できます。
一方、有線接続の場合は、ケーブルの引き回しや可動部への配線が制約になることがあります。ライン変更や設備移動のたびに配線を見直す必要が生じる場合もあり、メンテナンスの負担が大きくなる可能性があります。
無線LANを活用すれば、ケーブル敷設の負担を減らし、設備の移動やレイアウト変更にも対応しやすくなります。ただし、無線通信は周囲の環境や電波状況の影響を受けるため、安定した通信を確保するための設計や機器選定が重要です。
AGVなど移動体での無線LAN活用
AGV(Automated Guided Vehicle)とは、工場や倉庫内で荷物や部品を自動搬送する無人搬送車のことです。AGVのように工場内を移動する機器は、有線LANで接続すると移動範囲が制限されやすく、ケーブルの断線や引っかかりなどのリスクが高まります。
無線LANを活用すれば、ケーブルを接続せずに通信できるため、移動する機器との相性がよくなります。走行中の状態確認や制御信号のやり取りなどにも活用しやすくなるため、工場内の自動化や省人化を進めるうえで有効な選択肢になります。
ただし、移動体では通信エリアの切り替えや電波状況の変化が起こりやすいため、通信の安定性をどのように確保するかが重要です。
装置内配線や既存有線LAN機器の無線化
装置内配線や既存の有線LAN機器を無線化する用途でも、CC-Link IE TSN対応無線LANを活用できます。
装置内では複数の機器を接続するため、ケーブルの本数が増えるほど配線が複雑になり、設置やメンテナンスの負担が大きくなることがあります。
無線化によりケーブルの量を減らせれば、省配線化やメンテナンス性の向上につながります。また、既存の有線LAN機器を活かしながら無線化したい場合は、産業用イーサネット無線コンバータなどを利用する方法もあります。
ただし、装置内部は金属部材や遮蔽物の影響を受けやすいため、実際に導入する際は、通信品質や設置環境を確認しながら検討することが重要です。
コンテックのCC-Link IE TSN 無線認証取得製品
コンテックでは、CC-Link IE TSNの推奨無線機器試験に対応した無線LAN製品をラインアップしており、用途に応じて選定しやすい製品群を展開しています。
なかでも、FLEXLAN FX5000シリーズおよびFLEXLAN FX3000シリーズは、CC-Link IE TSNの無線認証を取得した製品群として提供しております。
ここでは、FX5000シリーズ、FX3000シリーズ、有線LAN機器の無線化に対応するRP-WEE-SR1について紹介します。
FLEXLAN FX5000シリーズは、Wi-Fi 6E(IEEE 802.11ax)に対応した無線LAN製品です。FXA5000/FXA5020、FXE5000は、CC-Link IE TSN推奨無線機器試験において「無線認証クラスAカテゴリCTRL認証」を取得しています。
Wi-Fi 6Eに対応しているため、従来の2.4GHz帯・5GHz帯に加え、6GHz帯も利用できます。また、OFDMAやMU-MIMOなどの技術により、多数の子局を同時に利用する場合でも、スループットの低下や遅延を抑えやすい点が特徴です。
FLEXLAN FX3000シリーズは、Wi-Fi 4(IEEE 802.11n/a/b/g)に対応した無線LAN製品です。FXA3000/FXA3020、FXE3000は、FX5000シリーズと同様に、CC-Link IE TSN推奨無線機器試験において「無線認証クラスAカテゴリCTRL認証」を取得しています。
5GHz帯や2.4GHz帯の複数チャネルを利用できるため、電波干渉を考慮した無線ネットワーク設計に対応しやすい点が特徴です。また、ステーション、アクセスポイント、リピータに切り替えて運用できるため、用途に応じた無線LAN環境を構築しやすくなります。
なお、FX3000シリーズはWi-Fi 4対応製品のため、Wi-Fi 6Eに対応するFX5000シリーズとは対応規格が異なります。利用環境や必要な通信性能に応じて、適したシリーズを選定することが重要です。
既存の有線LAN対応機器を無線化したい場合は、産業用イーサネット無線コンバータを活用する方法もあります。
RP-WEE-SR1は、有線LANに対応した機器を無線化するための産業用イーサネット無線コンバータです。フィールドネットワーク通信を高信頼・低遅延で無線化する製品であり、「CC-Link IE TSN推奨無線機器認定(INFO)」を取得しています。
また、コンテックの測定環境において、5ms以上遅延するパケット数が0.01%以内であることも示されています。
ただし、RP-WEE-SR1はカテゴリINFOの認定製品であり、FX5000シリーズやFX3000シリーズの「クラスAカテゴリCTRL認証」とは認証カテゴリが異なります。そのため、制御用途か、情報・監視用途かなど、目的に応じて適切な製品を選定することが重要です。
まとめ
CC-Link IE TSNは、TSN技術を採用した産業用オープンネットワークであり、制御通信と情報通信を同一ネットワーク上で扱いやすくできる点が特長です。これにより、リアルタイム性が求められる制御通信や、高度なモーション制御にも対応しやすくなります。
工場制御ネットワークを無線化する場合は、配線工事の負担軽減やレイアウト変更への対応といったメリットがある一方で、通信の安定性や信頼性を考慮した機器選定が重要になります。
CC-Link IE TSNの推奨無線機器試験に対応した製品を選ぶことで、用途に応じた無線LAN機器を検討しやすくなります。無線化を成功させるためには、用途に合ったカテゴリ・クラスおよび製品を適切に選定することが重要です。
本記事では前編として、CC-Link IE TSNの基本、無線化が注目される背景、無線認証の考え方、対応する無線LAN製品の概要を解説しました。
後編では、実際に無線化を検討する際に押さえておきたいWi-Fi 6E、電波特性、混信対策、ネットワーク構築、セキュリティのポイントを解説します。
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